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統合医療とはなにか

統合医療の意義と分類

アリゾナ大学の診療教授であるアンドルー・ワイル氏が、同校で「統合医学プログラム」を始めたのをきっかけに統合医療が日本でも注目され、若手の医師とセラピストで日本ホリスティック医学協会が1987年に設立されました。一方、東大の人工心臓の権威である渥美和彦教授により2008年日本統合医療学会が設立されました。前者は人間をこころとからだ全体からとらえることを主眼とし、後者は現代西洋医学の拡張としてエビデンスのある代替療法を取り入れていく立場をとっています。

統合医療を理解する前に、医学と医療の違いをしっかりとらえる必要があります。医学とは、科学に基づく知識からなる学問であり病気のメカニズムの解明が主目的になります。一方、医療とは修道院からはじまったように、人の健康の維持、回復、促進などを実現するための活動を言い、病気が真に治ることが目的です。統合医療は、この医療の原点に立った患者目線の医療で、この目線に立つと西洋、東洋にかかわらず治る可能性のある治療は何でも取り入れる医療ということになります。一方、現代医学を実践する大学や総合病院では科学的根拠を重視するため、ともすると患者さんに冷たい医療になりがちです。統合医療の課題は、この両者をいかにバランス良く組み合わせ、患者さんの利益に結びつけていくかということです。

最近、医療現場でもこのようなニーズが起きており、学生のカリキュラムに統合医療をいれる動きが出ています。私は2018年から札幌医科大学で統合医療についての授業を受け持つ幸運に恵まれ、現在は統合医療の総論と各論、そして死生学と統合医療についての講義をしています。学生は、まだ頭が柔らかく、様々なことを柔軟に受け入れられることができます。私は彼らが医者になったときに役立つように統合医療の萌芽が学生の心に残るような講義を心がけています。

さて、統合医療は西洋医学とそれ以外の代替医療から成り立ちますが、西洋医学には、現在の病院で行っている保険診療主体の医療と、まだ保険の効かない最先端医療が含まれます。また海外では盛んだが国内では未承認の医療もあり、なかでもオゾン療法は西洋医学的要素が強く、ホメオパシーは代替医療的要素が強くなります。従って統合医療は、うまく活用できれば、まさにオールマイティーな治療になりうるものです。

また、西洋医学と代替医療では、病気のとらえ方の違いが顕著です。西洋医学では、症状を病気の一部ととらえ症状を取り去ることが治療となるため、抗生物質、抗うつ剤、抗癌剤など “抗”のつく対抗的な治療が中心となります。一方、代替医療では、症状は身体が病気を治そうと発しているサインととらえ、自然治癒力の発揮が主体となり、症状に気づき出し切ることが治療となります。

次に、代替医療の分類を示すと、おおまかに①各国の伝統医学・医療、②現代医学に対抗的な医学体系、③広義の民間療法、④その他の心身相関療法、⑤健康食品、サプリメント類、食事療法など、に分けることが出来ます。

①の伝統医学では、中医学、アーユルベーダ、チベット医学が代表的ですが、世界各地に残るシャーマニズムも含まれます。②は、近代医学に対抗して現れた比較的新しい医療体系で、ホメオパシー、オステオパシー、カイロプラクティック、シュタイナー医学など、創始者が明らかで、独自の理論体系が確立され専門の教育機関(大学)などがあるものがあります。③は、種々雑多ですが、いずれも経験的にはその効果が認められ一定の支持者を持っているものがあります。④は、サイコセラピー的なもの、ボディワーク的なもの、エネルギー療法的なもの、五感を活用するものなどが含まれ、いわゆるセラピストによる施術の多くが含まれます。⑤は、薬として認可は受けていないが効果があるもの、民間療法、おばあちゃんの智慧などでまさに玉石混交状態で、最近はインターネット情報やネットワークビジネス、マスコミも絡んでさらに複雑になっています。

統合医療の現状と目指すもの

統合医療とはできる限りの医学的なアプローチを動員して病気を治癒に導く手段であることがわかったと思います。こんなに素晴らしい方法があるのに、実際にはほとんど広がっておらず、認知すらされていません。なぜでしょうか?

実は、現在の医療制度では統合医療が育ちづらい環境にあります。日本の国民皆保険制度は、質の高い医療が均等に日本のどこでも受けることができる素晴らしい制度です。しかし半世紀過ぎると制度上の問題点も見えてきます。この制度下では治療はすべて保険適応内の範囲でしか行えません。保険の効かない治療を同時に行うことは混合診療として固く禁じられているのです。このため殆どの総合病院では、がんの治療は保険の効く手術・抗癌剤・放射線以外の選択肢はなく、その中でエビデンスに基づいたガイドラインに沿った画一的な治療が行われています。そのためそこで働く医師は代替医療について知る機会がなく、勉強する必要性も感じません。むしろ病院での治療を断って代替医療に走る患者がいるため、どちらかというと代替医療をうさん臭く感じている医者が多く見られます。そしてエビデンスのない治療は非科学的もしくはインチキと捉えられる傾向が強いのです。

ここでエビデンスについて誤解が多いので触れておく必要があると思います。

Evidence-Based Medicine(EBM)とは“根拠に基づく医療”のことで、利用可能な最も信頼できる情報を踏まえて、目の前の患者さんにとっても最善の治療を行う、ということになり、まさに統合医療の基本指針そのものです。

本来の手順は以下の通りです。まずはその治療に関する情報を収集しエビデンスとなるのか十分な吟味を行います。研究論文の結論が有効であっても正しい手法で統計解析が行われないと間違った結論を導くことがあり注意が必要です。EBMでは、治療を患者に適用する際には、①エビデンス、②患者の病状と周囲を取り巻く環境、③患者の意向と行動、④医療者の臨床経験の4つを考慮すべきとされています。治療法の優劣だけではなくて患者の考えや思いもとても重要で、治療法は患者と話し合う中で決めていくのが原則となります。決してエビデンス優先の判断をすることがEBMではないのですが、現在は医者の中でも誤解されエビデンス至上主義となっているのはとても残念です。

一方、代替医療は西洋医学以外の施術や治療を含む広範囲かつ多種多様な領域です。伝統医学や近代医学として確立されたものや、オゾン療法などエビデンスのある治療法がある一方で、医学的知識なしに容易に資格が取得できる施術もあり、まさに玉石混交の状態です。そして効果を出す施術や治療がある一方で、癒しと治療の境界がはっきりしないためそれに伴うトラブルも発生しています。私は代替医療を信頼あるものとするためには、代替療法を客観的に評価するためのプラットホーム(共通の評価基盤)作りが必要と考えます。その上で各療法の特徴と得意分野を明らかにし、治療成績をオープンにして更新していくことが重要でしょう。同時に西洋医学だけでなく代替療法全般を理解している医療者の育成が必要です。まずは、医療者とセラピストが統合医療について学ぶ機会を作り、そこで意見を交わしながら医療者とセラピストのネットワークを構築したいと思います。

統合医療には、二つの側面があります。主として病院や診療所での患者を中心とした疾病の治療が目的である医療モデルと、主として日常の生活の場での生活者を中心とした疾病予防や健康増進が目的である社会モデルです。医療モデルでは医療者、セラピストによる多職種連携による集学的チーム体制で多様な患者の疾病への対応を目指します。一方社会モデルは地域住民を中心とした、地域コミュニティの多世代連携による多様な地域住民の生活の質(QOL)の向上を目指すものです。日本統合医療学会北海道支部では、2019年から5ヶ年計画で活動方針をたてて行動しています。2019年度は「統合医療を理解できる医療従事者と実力のあるセラピストの育成と交流」を目的に医療従事者とセラピストがともに統合医療を学ぶ勉強会を毎月開催してとても好評でした。2020年度は「医療者とセラピストの統合医療ネットワークの構築」を目的として、ひとりの患者を医療者とセラピストがそれぞれの立場から支える相談窓口をホームページ上につくりました。2021年度に「地域に根ざした統合医療ネットワークの構築」を目的に、一般社団法人を立ち上げ石狩市聚富に「ひびきの丘」を設立しました。そして、2023年度の「統合医療地域包括ケアモデルの構築」をめざし活動しています。

さて、統合医療が目指す医療はどのようなものでしょうか? ここでは、今では二人に一人が罹患すると言われているがんの治療を例に考えてみましょう。一般に行われる治療の目的は何といってもがん細胞を撲滅して健康な身体に戻ることです。それで西洋医学では再発しないように徹底的に治療を行い患者さんは闘病生活を送ることになります。しかしいくら戦っても最終的には乗り越えられない死が訪れます。西洋医学が死を敗北ととらえて、とことん生に執着するところに様々なひずみが起きているのではないでしょうか。多くの人が唯物論の影響で死はこころと体の消滅と考えていますが、最新の量子脳理論では、脳の振る舞いに量子力学的な性質が関わっていることがわかり、死後の魂やテレパシーの存在を説明できる可能性が出てきています。実際、私たちも生きていく中で来世を確信する経験をする事があります。統合療法では、もともと目に見えない魂の分野も取り扱っており、死は通過点と考えることに抵抗はありません。統合医療は死と向き合う医療と言えるでしょう。統合医療が目指すのは、「あきらめない医療」と「死を受容できる医療」です。「あきらめない医療」とは、特にガンの治療では免疫を下げやすい抗癌剤治療と自己治癒力に働きかけて免疫低下を防ぐ代替療法との併用を行ったり、どんなときでも治療法が提案でき、希望を失わせない医療のことで、生きたいという人間の根本的本能に沿ったものです。また、「死を受容できる医療」とは、生に執着してとことん治療することではなく、死は消滅ではなく通過点ととらえ、生への過度の執着を無くしたがん終末期の治療プログラムを立てることです。「もうすることがないので、ホスピスに行ってください」という対応は患者さんを絶望のどん底に落とすものであり避けなければなりません。終末期の死へのプロセスは、人生の総仕上げであり幸せな死を迎えることが出来るように医療者はそれぞれの立場で一人の患者さんを支え合い、サポートをしていかなくてはなりません。その結果、臨終の場は今生の卒業式となり、今生を生き抜いた喜びと来世への不安と期待、そして離別の悲しみの混じった厳粛なものになるはずです。医療者は式のプロデューサーとして患者が満足のいく式を遂行することになります。こうして統合医療に支えられた医療はこころ踊る喜びに満ちたものになることでしょう。

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